卵を茹でる時間は、単に「好みの固さ」で選ぶのではなく、科学的に計算することが可能です。
卵の固まり具合は、熱が卵内部に伝わり、たんぱく質が変性する温度に到達する時間によって決まります。
ここでは、卵の茹で時間を数式で導き出すプロセスについて説明します。
1. ゆで卵の物理モデルを理解する
卵はほぼ球体に近い形をしているため、球の形を基に熱伝導を考えることが重要です。
球体内部での熱伝導は、次のような熱伝導方程式で表すことができます。
\frac{\partial T(r,t)}{\partial t} = \alpha \nabla^2 T(r,t)
ここで、
• T(r,t):時間 t における、卵の半径 r での温度
• \alpha:卵の熱拡散率(物質によって異なる定数)
• \nabla^2:ラプラシアンオペレータ(熱の伝わり方を表す)
2. 卵の中の温度変化をモデル化
茹でている間、卵全体が均一に加熱されるわけではなく、外側から徐々に熱が伝わります。
このため、卵の内部温度が理想的な調理温度(たとえば、白身が凝固し始める約65°C、黄身が凝固する約70°C)に達するまでの時間を計算します。
3. 卵の熱伝導の数式
ゆで卵の熱伝導を考慮した時間を求める式の基本形は次の通りです。
t = \frac{r^2}{\alpha} \ln\left(\frac{T_w – T_0}{T_f – T_0}\right)
この式の変数は以下のように定義されます。
• t:茹でる時間
• r:卵の半径
• \alpha:卵白の熱拡散率
• T_w:沸騰した水の温度(通常は100°C)
• T_0:冷蔵庫から出した時の卵の初期温度(通常は4°C程度)
• T_f:卵内部が目標とする最終温度(たとえば70°C)
4. 実際の計算例
上記の式を具体的な数値に当てはめてみます。
まず、普通の鶏卵の直径はおよそ4.5cm、つまり半径は2.25cmです。また、卵白の熱拡散率は約1.4 \times 10^{-7} \ \text{m}^2/\text{s}です。
例えば、冷蔵庫から取り出した卵を、70°Cまで加熱したい場合を考えてみましょう。式に代入すると次のようになります。
t = \frac{(0.0225)^2}{1.4 \times 10^{-7}} \ln\left(\frac{100 – 4}{70 – 4}\right)
これを計算すると、約598秒、つまり10分弱の時間が得られます。この時間は、卵が「半熟」程度に茹で上がる時間です。
固ゆで卵にしたい場合はさらに長めの時間をとる必要があります。
5. 茹で卵の最適時間の調整
数式で求めた時間はあくまで理想的な条件下でのものです。
しかし、実際の調理環境では、水の沸騰具合や卵の大きさに多少のばらつきがあります。そのため、一般的には次のような目安が参考になります。
• 半熟卵:7〜8分
• 固ゆで卵:10〜12分
6. まとめ:数式が導く最適なゆで時間
卵の茹で時間は、熱伝導の方程式と卵のサイズ、初期温度によって決まります。
科学的なアプローチを取ることで、好みの固さに応じた正確な茹で時間を計算することが可能です。もちろん、実際の調理では個人の好みに応じて微調整が必要ですが、物理的な理論を理解することで、調理の精度を高めることができます。
まとめ
ゆで卵を茹でる最適時間は、卵内部への熱の伝わり方を科学的に考えることで計算可能です。
卵は球体に近いため、球体の熱伝導モデルを使って茹で時間を求めることができます。熱伝導方程式をもとに、卵の半径、初期温度、沸騰水の温度、卵の最終温度(白身や黄身が凝固する温度)を考慮して、最適な茹で時間を計算します。
具体的な数式として、t = \frac{r^2}{\alpha} \ln\left(\frac{T_w – T_0}{T_f – T_0}\right)という形で表され、この式に卵の半径や温度、熱拡散率を代入することで、茹で時間を導き出すことができます。
例えば、直径4.5cmの卵を冷蔵庫から取り出し、白身と黄身が適度に固まる70°Cまで茹でたい場合、約10分が目安となります。
固ゆでにする場合はさらに数分追加することで、理想的な固さを実現できます。
このように、科学的なアプローチを取ることで、ゆで卵の調理時間を精度高く調整することが可能です。
ただし、実際の調理では環境や卵の大きさに多少のばらつきがあるため、数式で求めた時間を目安にしつつ、微調整を行うことが理想的です。